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時価会計の停止

情報の非対象性という言葉があります。情報をある人が持っているにも関わらず、その他の人は持っていないという状態です。

情報の非対象性は格差を生みます。情報を持っている人がそれを利用して情報を持っていない人よりも優位に立つことができるためです。また、情報の非対象性は社会的な非効率性も生みます。情報格差を利用して一儲けできてしまうため、公平な富の分配が阻害されてしまうのです。

例えば、有名なのがエージェンシー問題。経営者のようなエージェント(代理人)が事業に関する情報を優位に持っているため、経営を委託している株主に利益を分配せず自分のものにしてしまうというケースです。このように、情報に非対象性があると社会的な非効率が生じるため、情報は広く公平に開示される必要性があります。

一方で、昨今の金融環境の悪化から出てきたのが「時価会計の一時停止」。まさに情報の非対称性を拡大する政策です。

今回はこの政策についてどうしても一言物申したく。

Objective
時価会計の停止がもたらすものを考える!

Conclusion
投資家の不信と社会便益の低下のみ!

Background
時価会計の停止とは、企業の持っている株式などの時価評価を一時止めてしまおうというものです。

企業は期末になると持っている株式の一部を時価にて評価する必要があります。そのため、100円で買った株が50円になっていたら50円の損を計上しなければなりません。これは企業が期末時点でどれだけの資産を持っているかを示すために必要なもの。そして、時価があるものについては合理的な限りなるべく時価評価しようというのが昨今の会計の流れでした。その理由は情報の非対象性の解消です。

時価評価をしないと特に企業の資産がどれだけ痛んでいるのかが分かりません。そのため、昨今のような金融不安の時にこそ時価評価を行い損失額を適切に開示することが投資家へのメッセージとなるのです。

この時価評価が凍結されたらどうなるか。投資家は企業の資産が痛んでいることを知っています。しかし、その金額が分かりません。そのため、疑念が生じます。その疑念は株を買わない、取引をしないといった「不信コスト」として企業にそのまま返ってきます。そのため、開示を適切に行わないことは、余計なコストを生んでしまうのです。

では、誰が時価会計を凍結すると喜ぶのか。

投資家は得をしません。企業の状況が分からなくなるからです。
企業も実はほとんど得をしません。上述の「不信コスト」が余計にかかってしまうからです。確かに持合株式の価格下落による損失の発生といった事業の成果とは直接関係ない損失によって業績が悪く見え、銀行からお金が借りられなくなったらどうするのだという意見もあります。しかし、例え時価評価を凍結したところで銀行は保有している株の一覧の提出を求めるでしょうから、全く無意味です。
よって、この規制によって喜ぶのは、銀行だけだと思います。

銀行が時価評価を凍結させたい理由はただ一つ。自己資本比率です。

自己資本比率とは、資産全体に占める自分自身の持分の割合。借入などを除いた出資と稼ぎの部分のみの比率です。国際業務を行う銀行なら8%、国内業務のみの場合には4%を確保する必要があります。

この比率を高く保つために株式を時価評価されては困るのです。銀行は預金という低利で資金調達した資金をリスクの高い投資にまわすのがその役目ですから、経済悪化の影響を人一倍受けてしまいます。そのため、時価評価は非常に目障り。特に今回のような「一時的」と思っていることによって事業が行えなくなったらたまったものではないということでしょう。

しかし、そのリスクを管理するのが銀行の役目なのではないでしょうか。金融市場が悪化した時に備えてリスクをヘッジする意図と能力なしに銀行業を営むことはできません。

もし、今回の影響を避けたいのならば、一時的に変えるべきは最低自己資本比率の規制の方なのです。会計は企業の状態を適切に表す鏡。鏡を変えても、本人が変わらなければ他人の眼には醜い姿が映るだけなのです。

情報の非対象性を解消するために会計士はがんばっています。鏡を捻じ曲げるよりも、メタボを直すために運動することが大事だということと同じです。

不快に思われた業界の方がいらっしゃったら申し訳ございません。

ではでは。

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