玻璃の鏡
昨今の相場変動は1929年のブラックマンデーを超えているそうです。
つまり、今、私たちは100年に一度の経済を生きています。
ブラックマンデーを超えて、米国市場には1934年に証券取引委員会が創設されました。
それまでの恣意的だった会計処理が整備され投資家に情報提供が行われるようになりました。情報開示の第一歩です。
それから80年。歴史が繰り返されています。一点違うのは、今回は会計が悪者扱いされていること。
特に僕がショックを受けたのは、日経新聞までもが時価会計凍結に理解を示したことです。丁度前回の記事を書いた翌日の社説に時価会計凍結が取り上げられていました。
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『時価会計「凍結」の意味を考える』
日本の金融機関は相対的に健全とみられているが、時価会計の緩和が世界標準になりつつある以上、会計基準を米欧と同一条件にそろえるべきだろう。日本の企業会計基準委員会は米欧とひょうそくを合わせる方向で議論をまとめる見通しだ。
大事なのは、世界規模で極端な信用膨張の反動の極端な信用収縮が起きている現在、金融市場の恐慌相場で経済混乱を増幅する事態を防ぐことである。時と場合によっては、理外の理で、独自の政治判断での時価会計の一時停止もあり得る。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20081026AS1K2400125102008.html
これが先進国の会計議論でしょうか。口惜しい限りです。
Objective
時価会計の必要性を考える!
Conclusion
開示の後退は不安の増長を呼び意味が無い!
Background
米国基準での時価会計の停止論拠は、FAS157による公正価値(Fair Value)に基づくものです。FAS157は債権、証券を「市場で売ることのできる価格」を公正価値と定義する基準です。また、同基準は公正価値を3つのレベルに分けた点が画期的でした。
Level 1:市場から直接得られる時価で公正価値評価しているもの
Level 2:市場から得られる情報+それを基にした公正価値の調整
Level 3:大部分を市場情報以外の情報から公正価値作成
このうち、今回の市場不安定化で時価評価を延期することができるのは、Level 3のもの。何が「公正な価値」か分からなくなった昨今の状況を良いことに、自分がBestと考える公正価値を使用すればそれが正しいものと判断できるとしました。つまり、自分が正しいと言い張れば何でも良いというもの。実質的には時価会計の停止です。
欧州・日本の理論はもっと稚拙で、売買目的で保有していた証券を満期保有目的に保有目的変更することにより時価評価を行わないこととするもの。売り飛ばす目的で保有している証券だから期末では時価評価すべきと判断したのに、それをずっと持ち続けるつもりだと言えば、やっぱり時価評価しないでいいですよーと許してしまうものです。
どちらも論理崩壊しており、政策的なものであることは間違いありまん。
そして、そのように恣意的に会計処理が動かせる現在の状況を会社はどのように利用するのでしょうか。それは、一時的に時価会計を停止し、その凍結が解除される時に今まで処理できなかった負の遺産を一気呵成に全て損失処理するという方法で利用するのです。
つまり、時価会計の凍結は、損失を抱えた会社にその損失を隠す機会を与えるだけではなく、その他の損失も秘密裏に処理する機会まで与えてしまうという最悪の政策です。
財務諸表が信用できないのでは、投資家は何を信用して投資を行えばよいのか分からなくなってしまいます。そのため、必要以上に疑ってかかる、投資を減らす、さらには、資金の引き上げを行うといったことが考えられます。すると、資金供給者のいなくなった市場はさらに流動性を喪失し、不安定な状況が長く続くというものです。
繰り返しますが、悪いものを隠してもしょうがないのです。食品の偽装ではあれだけ情報開示にこだわるのに、なぜ会計になると偽装を許してしまうのか。私たちの普段の感覚で考えれば分かるはずのことなのです。
平常心。いつも通り考えましょう。状況か悪いときほど、なお。
ではでは。
参考文献
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米国財務会計基準の実務 第4版
販売元:中央経済社 |
☆×5
おそらく日本で一番詳しい米国会計基準の本です。詳細かつ専門的なので、専門家しか必要ないのかもしれませんが、専門家なら必読の一冊です。
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Wiley Gaap 2008: Interpretation and Application of Generally Accepted Accounting Principles (Wiley Gaap)
著者:Barry J. Epstein,Ralph Nach,Steven M. Bragg |
☆×5
英語なのですが、米国会計基準のことは米国の本に聞け、ということで。非常に基本的なことから詳細に記載してあり、とても分かりやすいです。英語に自信が無くてもぜひ。
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成毛真のマーケティング辻説法 (日経ビジネス人文庫)
著者:成毛 真,日経MJ |
☆×4
上に専門書が並んでしまったので。会計をここまで使いこなして考えている方は少ないと思います。マーケティングと銘打っていますが、考え方の本です。
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