本の紹介 - 知的複眼思考法
朝の通勤で、新聞を広げる。満員電車なのでなるべく小さく折りたたみながらなんとか読む。時間が無いので見出しをチェック。今日の出来事の一覧を把握して会社に向かう。
その日のトピックを短時間に吸収。必要な記事があった時だけちょっと目を通せばいいじゃない。だって、新聞ってそういうものでしょ?
そんな、毎日でした。
しかし!…そんな読み方で終わっていたらもったいない!と思わせてくれる本に出会いました。ぜひご一読をお勧めしたく、紹介です。
Objective
複眼思考で文章を読む!
Conclusion
モノゴトには多面的な解釈があるのです!
Background
この本は「本と会話をできるようなるための本」です。よく、筆者と対話をしながら本を読みなさいと言われていますが、そのレッスン本です。
筆者と対話をするために必ず必要なことは、自分で考えて読むこと。そのために進むべきステップは、①唯一の正解を求めることをやめる、②前提を疑う、③問いを立てる、④物事の多面性に注目するというものです。
①正解はない
私たちは本に書いてあることを「正解」として受け止めるクセがついています。確かに本は信憑性が高い情報源です。しかし、そもそも正解とは何なのでしょうか。
物事には必ず表と裏があります。ある方面から見れば正解なとこも、別の方面から見れば不正解になります。そのため、ここで言う正解とは相対的な真実です。よって、本に書いてあることが絶対的に正しいということはありえません。まず、この認識を持つことによって複眼への第一歩が踏み出せます。
②前提を疑う
文章が拠り所にしている前提を疑ってみましょうということです。例えば「不況のため、企業の売上が落ちています」という文章。
最近は不況と言われます。確かにその通りのような気がします。しかし、不況の定義とは何なのでしょうか。日経平均が7,000円だから?失業率が2008年12月に4.4%に達しているから?GDP成長率が年率で-12%と見込まれるから?お給料が下がったから?
明確な定義がないまま、何とはなしに今は不況と言われ、何とはなしに納得している。しかし、この文章では「不況だから」は「企業の売上が落ちている」の唯一の根拠。これだけでは正しいのかどうか分りません。
私たちは常識に囚われてしまい曖昧な根拠でもそのまま文章を読み飛ばしがちです。
③問いを立てる
まず、「なぜ」と唱えてみます。魔法の言葉、「なぜ」はどんどん問題を深く掘り下げていってくれます。因果関係を明らかにする言葉です。
次に、問題を抽象化します。概念のレベルを一つ上げるという操作をすることによって、もっと広い視野で辺りを見ることができるようになります。
例として本書で挙げられているのが、いじめについて。A君は少しできるヤツだから嫌われていた。B君は運動音痴のためいじめの対象になった。A君とB君に共通するのは、平均からの乖離。具体例を少し抽象化して共通の概念を抽出しています。
さらに抽象化すると、「均質化の生じやすい場所では、異質なものは除外の対象となりやすい」ということが言えます。これは、いじめ以外の問題にも使えそうです。
この概念のレベルを操作するという考えは新鮮で、新しいアイディアを生み出す源泉となるように思えます。ある分野の事象を他の分野の事象に応用することによって、新しい知識が作り出される例が多いからです。
④物事の多面性に注目する
まず、物事をその構成要素に分解します。次に、構成要素の間でどのような関係があるかを考えます。最後に、文脈の中でどの関係がクローズアップされているかを考えることによって、多面的な見方をすることができるようになります。
たとえば、「終電を10分遅らせたところ、電車の運営会社に損失が生じた。新サービスは失敗であった」という文章。これは、新たなサービス、サービスを利用する人、運営会社という構成要素のうち、新たなサービスと運営会社のコストの関係に着目した文章です。確かに、利益は減少しているためこの文章は経営という観点からは正しいことになります。
しかし、利用する人が便利だと考えていたらどうなるか。新たなサービスと利用する人との関係をクローズアップすれば、乗客の満足度は高まっておりこのサービスは成功であるとなるのではないでしょうか。
***
本書の読み方を実践することは間違いなく難しいです。また、時間もかかる読み方で昨今の主流である速読にも反します。
しかし、速読一辺倒になるとどうしても詰めが荒くなると思うのです。時には時間をかけて文章を書いた人の意図を考えながら読み進めれば、モノゴトの新たな一面を見ることができるようになるはずです。
む…本書を批判的に読むと、批判的な読書の効用を疑うことになるのですが、今現在やっていることは批判的読書ですから。。。?
ではではー(笑)
<もっと知りたい方へ>
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知的複眼思考法―誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社プラスアルファ文庫)
著者:苅谷 剛彦 |
☆×5
面白いです。毎日起こっていることをこのように多面的に捉えることができれば、今までとは薄皮一枚隔てた世界を生きることができるような気がします。ぜひ。
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