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青い海の見つけ方 - ブルーオーシャン戦略pt.2

前回、ブルーオーシャン戦略とは新しい価値を新しい顧客に届けることによって新市場を創出する戦略であると考えました。

Blue Sky, Blue Ocean
Blue Sky, Blue Ocean Photo by razrez

ブルーオーシャン戦略が新しい理論であると言われるのは、従来の競争戦略論のトレードオフを否定している点です。従来、競争戦略論ではコスト・リーダーシップ戦略と差別化戦略を同時に追求することはできないと言われてきました。

五つの競争要因に対処する場合、他社に打ち勝つための三つの基本戦略がある。
1. コストのリーダーシップ
2.  差別化
3.  集中
ときには、このうち二つ以上を主目標にしてうまくゆくこともあるが、後述するように、これが可能になることはまれである。
MEポーター, 「競争の戦略」, ダイヤモンド社,  1980年, P.56

では、なぜブルーオーシャン戦略はコスト削減と差別化の両方を同時に追い求めることができるのでしょうか。それは、既存の競争を想定していないからです。従来の競争戦略論は既存の市場での優位性の創出を目標としていたのに対して、ブルーオーシャン戦略は新市場の創出を目標としています。

この考える前提の変更がブルーオーシャン戦略のとても斬新な点であり、かつ、議論を呼ぶ点でもあります。実際に海外のWikipediaでの"Criticisms"欄の書き込みはポーターの理論よりも多いです(Wiki)。

成長市場では競争戦略による優位性の創出に意味がありますが、成熟市場ではより新需要の創出が重視されることは明らかです。その点で、1980年から25年を経て成熟産業が増えてきた環境下でブルーオーシャン戦略が提案されたことにはとても合理性があると思います。

今回は、そんなブルーオーシャン戦略ではどのように新市場を創出するのかを考えてみます。

 

新たな需要を掘り起こす


ブルーオーシャン戦略では非顧客層を3つのグループに分けて考えています。

非顧客階層
非顧客階層 Photo by 130shin

第1グループは今の製品・サービスからすぐに逃げ出す可能性のある層、第2グループは今の製品・サービスを買わないと決めた層、第3グループは市場から距離のある未開拓の層と定義されています。この第3グループまで製品・サービスを届かせることがブルーオーシャン戦略の目標です。

例えば、任天堂のWiiは第2グループまで届いた例です。Wiiの当初のコンセプトは「お母さんに嫌われないゲーム機」、そして、最終的には「家族全員に関係のあるゲーム機」であることを目指して作られました。それによって、PS3やXBOXなどの高級ゲーム機を敬遠していた層に迎え入れられることに成功しました。

また、同じく任天堂のNitendo DSは明確にユーザーの拡大を目指して作られた製品です。1家に1台のゲーム機から1人1台のエンターテイメントマシンへ。そのために、大きな画面、2つのスクリーン、タッチペンによる簡単操作といったシンプルかつ分かりやすい驚きが盛り込まれました。

加えて、従来にはないゲームも多く発売されました。脳トレ、ニンテンドッグスなどのソフトは年齢の高い層や海外のユーザーに広く受け入れられています。その結果、第3グループまでが製品を買い求め、累計1億台の販売を4年3ヶ月で達成しています(iPodは5年半、PS2は5年9ヶ月を必要としました)。

ゲーム市場は成熟産業と言われ、まさに性能開発による激しい競争とお客の減少が著しい業界でした。その中で任天堂がゲーム人口を増やすために採ったブルーオーシャン戦略は多くの示唆を与えてくれます。

業界内でのルールでの競争よりも、自分たちはどのような価値を創り出し、誰に届けたいのかを考える。それが新顧客層の開拓の第一歩です。

 

戦略キャンバスによる価値の確認


自分の事業がどのような価値をお客に提供していて、それが他社とどのように違うのか。それを分析するためのツールが戦略キャンバスです。

Strategy-Canvas-Nintendo-Wii-781861
Strategy-Canvas-Nintendo-Wii-781861 Photo by nannona

例えば、この方の描いた戦略キャンバスでは、PS3とXBOXは同じような価値曲線を見せているのに対して、Wiiのそれは明確に異なることが分かります。良くも悪くもインパクトのある商品の価値曲線は他の商品の価値曲線とは異なるものを描くことになります。

Blue Ocean Strategy
Blue Ocean Strategy Photo by 130shin

これはブルーオーシャン戦略の作者のHPにある戦略キャンバスの説明のための図です。業界の価値曲線がお客の要望を平均的に提供するのに対して、ブルーオーシャン戦略の価値曲線は一部お客の要望を無視したものとなっています。

僕はこのメリハリがブルーオーシャン戦略の最も大切なものであると考えています。

ブルーオーシャン戦略による商品は何かの強みを持つことが必要となりますが、ある要素に力を入れるためには他の要素にまで同じ力を割くことはできないはずです。その力を注ぐもの、削り落とすものの選別こそがブルーオーシャン戦略の要です。

戦略キャンバスを描くことによって、自分の提供する価値のどこが新しく、どこが他社と違うのかを認識することができます。この戦略キャンバスのコントロールによってブルーオーシャン戦略の基盤が創られます。

ただし、戦略キャンバスでメリハリのある価値曲線を描くためには、自分がお客に何を提供しようとしているのかを明確に把握することが必要になります。そのため、まずはお客に提供したい価値は何なのかという自問からブルーオーシャン戦略は始まると言ってもよいのではないでしょうか。

 

ブルーオーシャン戦略のリスク


コスト低減と差別化を両方同時に追い求めることができるとするブルーオーシャン戦略ですが、その最大の弱点が戦略キャンバスによって明らかになります。戦略キャンバスの横軸、お客に提供する価値の認識を失敗した場合には誰からも必要とされない商品になってしまうのです。

そのため、ブルーオーシャン戦略の対価とは、事業の成功率が通常の事業よりも読めないというリスクになります。このリスクを管理することがブルーオーシャン戦略を採用すると決めた経営者の一番注力しなければならない点です。

これまでに安定した業績を達成できている会社ならば、事業のポートフォリオによって資産の一部のみをブルーオーシャン戦略に割り当てるという方法が有効でしょうし、逆に面白法人カヤックのように、価値曲線にメリハリのある事業を数多く実施して、生き残ったものだけを継続するという方法もあります。

どのように事業への経営資源の振り分けを行うかは経営戦略の考え方次第です。ただ、ブルーオーシャン戦略=良い戦略と必ずしも短絡的に考えてはいけないと思います。

 

戦略キャンバスの横軸設定・縦軸測定の難しさ


戦略キャンバスの横軸の設定を誤ると誰にも必要とされない商品が出来上がると書きましたが、この横軸の設定が非常に難しいと感じています。通常、既存の競争の軸が横軸ととらえられがちですが、お客が本当に望んでいる価値は何なのかはお客自身も分かっていないからです。

Wiiのケースでは、ユーザーインターフェイス=コントローラーの革新という、それまで誰も気づいていなかった価値に注力したため他の商品と異なる価値曲線を描くことができました。しかし、このユーザーインターフェイスの価値に気づくことができる人がどれだけいるのか。再現性があるのかは疑問です。

また、価値曲線の縦軸の測定方法も本からは読み取ることができません。自社の商品が価値を提供できていると考えていた要素で、実はあまり競争力がなかったという話は往々にして出てきそうなものです。

この問題についてはまだ引き続き考えていきたいと思います。

 

まとめ - 成熟産業でこそ必要なブルーオーシャン戦略


ブルーオーシャン戦略はお客に提供する価値にメリハリを持たせることによって市場を拡げる戦略です。一方で、その対価として不確実性の高い戦略であるとも言えます。そのため、成熟産業で必要な考え方であるにもかかわらず、成熟産業でこそ敬遠されがちな戦略です。

僕はブルーオーシャン戦略は先進国のような成熟産業を多く有する国、まさに今の日本に必要な戦略だと思います。レッドオーシャンでの競争に全力を注ぎ、がんばっているのだけれども昔のような手応えを得られないと考えている企業は多いのではないでしょうか。そんな会社にほんの少しブルーオーシャン戦略に経営資源を振り分けてもらえれば、つまり、ほんの少し今とは違うことをするというチャレンジをしてもらえればと思います。

そんな無責任なことばかりを言ってもしょうがないので、僕も一所懸命に考えなければなぁと思う次第です。

ではではー


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コメント

アキさんコメント有り難うございます。
コメント中の発見力は「戦略策定の6つのパス」で書かれている「代替産業に学ぶ」に該当するのだと思います。事業が価値として何を提供しているのかについては、他業種の方の方がより客観的に見ることができるのでしょうね。
それに気づくことが、同一価値を提供する他業種との異業種競争の始まりでもあると思います。

投稿: しんのすけ | 2011年5月 7日 (土) 04時54分

非常に解りやすく要約と問題点を提起できてるね!私は縦軸の要因を企業側がどれを置くか?の発見力が必要だと思いまーす。個人的には、同じターゲットを狙っている他業界の人間のほうが見つけやすいのでは?と最近感じています。(実業のなかで)

投稿: アキ | 2011年5月 5日 (木) 08時35分

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