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本の紹介 - さよならドビュッシー

僕たちは自分という存在の証明のために生きている。

さよならドビュッシー (宝島社文庫)
中山 七里
宝島社
売り上げランキング: 21340

 

 

健気さに心打たれるとか、頑張っている姿に感動するとか。そんなキレイな話では決してない。もっと生々しく彼女は戦っていた。自分を押し潰そうとする全てと。

ピアニストを目指す彼女に災難が訪れるのは、ドビュッシーにさよならを言う終章から遡って4ヶ月。家が焼け落ち、最愛の家族を失い、自分も全身に重度の火傷を負う。

周囲の好奇の目、嫉妬、普通じゃない者の拒絶。そして、ピアニストとしての存在を奪おうとする皮膚の麻痺。そんな中で、一人だけでも頼ることができる人がいたというのは、どれだけ心の支えになったのだろう。

物語が常に問いかけてくるのは、自分とは何かという存在の意義。それが、音楽という最も感情に近い表現手法の中で繰り返し繰り返し問いただされる。

圧倒的な表現力の中で、ページをめくるたびに強烈な旋律、情熱、眼の眩む光、そして安らかな心地が伝わってくる。行間から音が漏れ出し、次第に頭を、最後に胸を熱くする。本という形を採った協奏曲だった。

まばゆい限りのスポットライトの中で、彼女は自分を見つけた。それは決して与えられたものではなくて、彼女が勝ち取ったものだ。生きるということを体の全てで表現する彼女が少し羨ましくもある。

生きることは戦いだ。それは、自分が自分であるために、世界に存在を刻み込むことである。

小さくてもいい。自分という存在を少しでも深い痕跡に。

そんな熱さをくれる一冊。

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