三品 和広
東洋経済新報社
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あまり本の紹介で専門書は紹介してこなかったのですが、素晴らしいので紹介。
第Ⅰ部 戦略不全の実態
第1章 日本企業の戦略不全症
第2章 データに見る戦略不全
第3章 ケースに見る戦略不全
第Ⅱ部 戦略とは何か
第4章 演繹的マクロ戦略論
第5章 帰納的ミクロ戦略論
第6章 大局的判断の戦略論
第Ⅲ部 戦略不全の背景と処方箋
第7章 経営戦略の3要件
第8章 日本企業の経営者
第9章 戦略不全の処方箋
まず、社会科学にあるべき定義付けが厳密なところがスゴい。モノゴトを理解するためには、まずは正確な理解が必要だからといって、3章も使って帰納的・演繹的に戦略を定義付けようとする試みに学者としての心意気を感じます。
目次だけで語りかけてくる一冊にはなかなか巡り会えません。
また、全ての主張が堆く積み重ねられたデータから導き出されたものであり、簡単なビジネス本に慣れてしまった頭をもう一度データの海に突き込んでくれます。安易に主張をするなと、まさにデータをもって語らしむ。
ですが、文章は決して退屈にならず、発見と新奇性に溢れた小旅行のようにワクワクしながら読み進めることができます。例えば下のように、本質的に難しいことをさらりとまとめる技術にただただ感心です。
p.193 戦略が難しい理由戦略が難しい理由は、多く分けて3つある。善良な社員が会社のために良かれと思ってすることが、結果として会社の戦略に逆行するというのがまず1つ。情報や知識が集積する部課レベルの組織に委ねるのでは、そもそも戦略にはならないというのがもう1つ。そして、戦略はマラソンであって駅伝にあらず、すなわち経営者から経営者へバトンを渡すリレー方式ではうまくいかないというのが最後に1つ。この3つが絡み合うから、戦略は本当に難しいのである。
そのような下積みを重ねた第一部、第二部を受けて展開される第三部の迫力は十分。創業者社長の時には戦略はあったのに、それ以降の社長からは戦略が生まれにくいという主張にはドキリとします。
どこまでも管理職の人材が企業トップに立ってしまった時に、企業の成長は止まってしまう。みんな分かっているのに、会社のルールがそのようにできているのですからしょうがない。みんなで崖に向かって走っているのと同じです。
戦略とは何かという問題を深く堀り下げることで、組織の、そしてそこで働く人の問題にまで踏み込んだ一冊。企業人として、管理職として、経営職として。立場を変えて読むたびにその都度新しいことを返してくれることは創造に難くないです。
また、研究というものに少しでも興味があるならば、この本のような文章を書けるようになりたいと願わずにはいられないはず。
良いものを見分けるためには、良いものしか見ないこと。研究書のロールモデルとして、ぜひ。
ではではー
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