【ダイバーシティ・プロジェクト】内田氏×勝間氏対談講演
どんな話にも具体例を出せる内田氏と、どんな話もデータに基づく勝間氏のハイレベルな討論でした。
朝日新聞社 ダイバーシティー・プロジェクト:イベント情報 Photo by 130shin
議論の目的は、成熟化した日本が競争力を取り戻すためにはどのような働き方をすればよいのか、というもの。それぞれの結論は、僕は以下のように理解しました(以下、完全に僕の理解ですので、その旨何卒ご了承下さい)。
内田氏
今の画一的な雇用に関する意識を、企業も従業員も変える必要がある。
従業員は企業を成長の機会とスキルを与えてくれるか否かで選ぶことが大切。大企業では「企業内価値」を上げることに専心しがちで、それは市場価値とは異なる可能性がある。一方で、企業側、特に大企業は、旧来の意識で採用を続けていると、企業にぶら下がる意識の従業員ばかりが来る可能性があることに危機感を抱くべき。
勝間氏
今の生産性の低い長時間労働が問題。それを解消するためには適切な競争が必要。競争を造り出せば人材は適切な場所に配置されるようになる。働く人、働き方、もっと多様性をもたせるべき。イノベーションは製造現場だけでなく、組織にも必要な考え方。今は働き方のイノベーションが必要。
論点 - どのような働き方が企業の競争力と働き手の幸福度を高めるのか
日本は成熟化しており、従来の働き方では日本は世界の中で競争力を失っていく可能性が高い。解決のために、どのように働けば持続的に競争力を高めることができるのか。
結論までの背景
勝間氏が切り込み、議論がスタート。週50時間以上の勤務が当たり前である現状は、ホワイトカラーの生産性の低さに起因するものと主張します。長時間労働は家庭にも影響を与え、日本の労働環境を悪くしているとの持論を展開。一方で、内田氏は日本企業の競争力を労働時間の短縮後も維持できるのかという疑問をぶつけます。
次第に、時間を短縮するだけでは不十分で、生産性の改善のためには評価制度や経営者・従業員双方の意識も変わらなければならないという議論に。
従業員は自分のスキルがどの程度なのかをもっと考えながら働かなければならないと。つまり、自分がどれだけ時間当たりお金を使って、どれだけ稼いでいるかをもっと意識して働く必要性が訴えられます。
一方で、経営者や上位者は、どのように仕事を割り振るかについてもっと意識する必要があるとの話に。例えば、働き手の多様性のために母親従業員を雇い、その方のために仕事の総量を他の従業員の半分にしたという例。これは解決になっておらず、母親従業員は翌週の仕事の予測可能性(プレディクタビリティ)を重視しており、経営者の意識とのズレが生じていたというもの。
もっと多様な経験を積んだ多様な人がマネジメントを勤めないと、従業員の多様性は達成し得ず、業務の仕方も固定化されて効率性も上がらない。それを達成するための方法として両氏の主張があるのだと理解しました。
感じたこと
全体として内田氏は経営者寄り、勝間氏は従業員寄りの視点からの議論でした。立場を異にして話を進めていたので非常に論点がクリアです。今回のディスカッションで個人的にこれは論点だなぁと思ったのは以下の3点。
- 個人の企業内価値と市場価値は連動しないこと
- 生産性に対する評価制度をどうするか
- 多様性を可能にすることは結果として組織の自分への依存度を下げること
1は企業内には独自のルールがあるため、それに精通するほど、他の企業で使えるスキルを犠牲にしがちという話。これは、企業としては人材の囲い込みとして良いのかもしれませんが、従業員としてはたまったものではありません。解決法は雇用の流動化です。雇用が固定化しているから業務の標準化の必要がなく、独自の文化が根強く残り、非効率の温床となるのだと思います。
2は単純に時間短縮で働けば良いのか?というお話。組織ですから下のスタッフを育てる必要もあるわけで、それには時間が掛かりますと。一方で、時間と成果物だけで評価されることなれば、下のスタッフを酷使するハイパフォーマーが評価されることは必至。次第に組織が疲弊するのではないかなぁという疑問です。これは、P&Gのように上位者は下のスタッフの仕事によって評価されるといった評価制度が必要になるのではないでしょうか。
3は究極なのですが、自分が仕事を標準化すると、誰でもその仕事ができるようになって、結局自分がクビになってしまう可能性が高まるということ。組織の効率化に貢献した場合にはちゃんと報いられる文化がないと、がんばり損になってしまう。これには、組織なり転職市場なりが効率化を評価する環境が必要です。
第一ピンは何か
結論としては、競争原理の導入や評価制度を変えれば良いだけではなくて、社会の意識が効率化を重んじて、豊かに時間を過ごしましょうという方向に向かわないと難しく、やっぱり問題は根深いね、という感覚を受けました。
でも、それでは何も変わりません。では何を一番最初にするべきなのかと考えると、雇用の流動化なのでしょう。もっと転職が一般的になればいい。
雇用の流動化は勝間氏の主張する競争原理や、内田氏の主張するスキルを意識する働き方を促します。すると、自分の働き方の費用対効果を考えざるを得ない。次第に生産性は上がるだろうという考え方です。
一方、従業員の意識を短期志向に向かわせるものであるという点もあり、行き過ぎた流動化は長期的な組織の発展を妨げます。
ですが、それでも効率性を問題にする限り、雇用の流動化は避けて通れないものだと思います。今の長時間労働の解決のためにも、非雇用者の労働参画のためにも、もっと仕事は細かく分類されていくべきで、それに対処できる人が適所に配置されるのが良いはずです。
世界各国の幸福度は、平均的には30代を底にしたU字型を描くのに対し、日本の幸福度は生涯ずっと下がり続けるという調査結果もあるそうです。
もっともっと皆が幸せに働ける国にしたい。そう感じた今回のディスカッションでした。
ではではー
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