達人と持続する情熱 - 本の紹介: 勝ち続ける意志力
達人には共通するものがある。自分の中に見出した光に取り憑かれ、懸命に、執拗に繰り返し技術を蓄え、一歩一歩高みに登る姿だ。その姿は鬼気迫るが、美しい。
小学館
売り上げランキング: 25
読む前に感じよ
紹介を始める前に、動画を一つ見て頂きたい。本書の冒頭でも触れられている「37秒の奇跡」だ。
これはカリフォルニアで開かれたゲームの祭典「Evolution 2004」の動画である。これをやってのけたのが本書の筆者、梅原大吾氏である。
このゲームのことを何も知らなくとも、この会場の盛り上がりに熱される。それだけこの展開が偉業だったということなのだが、それもそのはず。このコマンド、1/60秒の精度で入力する必要があるのだ。1/60秒はカメラの瞬きより短い。
対戦相手のことを知るともっと驚く。ジャスティン・ウォンという選手はあるゲームでは4年間大会で負けがなかったほどの猛者だそうだ。あまりにも強いため、負けると会場が沸くのだ。
初めて見た時からこの動画はずっと印象に残っていた。そして、書店で本書を見つけた時、表紙を見ただけで気づいた。この本の作者はこのプレイヤーだと。
日本にプロゲーマーという職業を創り上げた男
意外にもビデオゲームの聖地である日本にはプロゲーマーという職業がなかった。梅原氏が初めてスポンサー契約を結び、プロゲーマーとなったのは2010年のことだ。その時のスポンサーも日本企業ではなく米国企業だ。
それだけ、日本での「ゲーマー」というものの地位の低さが表れている。梅原氏は外からの、そして自分自身のゲームに対する白眼視にずっと耐えてきた。本書を読むと子供の頃から、梅原氏が「なぜ自分にはゲームなのか」と悩み続けつつもゲームと共に歩んできたことが分かる。
日本という国にいながら、同氏が社会的な地位を、つまり、一つの公式な職種としてゲーマーの座を得たのは29歳の時である。同氏が初めてゲームに出会ったのは5歳のとき。その間、時間にして約25年。言葉に発せば短いが、その間に感じ続けた疎外感や迷いは他人には理解できないだろう。
達人だって悩み苦しむ
現に同氏の人生は悩みであると言っても過言ではない。ゲームを初めて悩み、上達して悩み、世界一になって悩み、一時はゲームから離れ、介護の世界も見ている。だが、迷いの度に同氏は強くなっているように感じた。それは、自分の道を一度脇に逸れることで見直しているから、そして、脇に逸れる度に人の心を理解していくからだ。
好きなことをしていればずっと楽しいわけでは決してない。好きなことだからこそ苦しいことにも耐えられるのだ。そんな、苦しみにすら耐えられる、大切な一つのことに出会えるということはとても幸せなのだと思う。
人が苦しまないことなんてない。苦しみながらも続けられることと続けられないことがあるだけだ。
まとめ - 続けられること、それがあなたの大切なこと。
平坦な人生はない。一時はしゃがみ込み、時には道から逸れ、それでも続けたことが人を創り上げる。
誰だって悩み苦しむ。その悩みに真摯に向き合って、それでも続けたいと思う何か。それが人生にとって大切なことなのだ。
苦しいだけの努力はしてはいけない。自分を痛めつけて能力を高めても、一時的にしか続かない。続けること、それはそれだけで一つの才能である。
そう本書は語りかけてくる。
持続する情熱を胸に抱くすべての人に、本書を。
| 固定リンク
「オススメ本を広めたい!」カテゴリの記事
- ビジネススクール教授のオススメ本まとめ(2012.08.13)
- 最速で利益を生み出すために - 本の紹介リーンスタートアップ(2012.06.11)
- 達人と持続する情熱 - 本の紹介: 勝ち続ける意志力(2012.04.19)
- 本の紹介 - 戦略不全の論理(2011.09.19)
- 本の紹介 - さよならドビュッシー(2011.08.23)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント